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「もう着てみましたか」
と、今泉は一寸声をひそめた。
「おーい。渡つてもいゝかね」
と、房一は小谷に向つて訊いた。
「いゝや、まだ」
「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」
又走り出して、草の中に鼻を突つこんだ。が、今度はすぐもどつて来た。房一は緊張した表情をつくつて、その背をつかんでぐつと押した。
と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
「徳さんが新しいのを掛けてくれるまで待つていた方がいいかもしれませんね、これは」
庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。
房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、
房一は面喰つて、ぽかんと口を開けた。