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    さつきから、日のあたる縁側近くに縫物を持ち出していた盛子は、あんまりびつくりしたのと身体が重いのとで、立上ることを忘れてかう感嘆詞を連発しながら、あの語尾の跳ね上りを少し響かせながら、庭先に現れた人影に向つて目を瞠みはつていた。

    「さうですつてね」

    「さあ、どうぞ。ずつとお通り下さい」

    実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。

    ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。

    房一はふりかへつた。

    「いや、なに」

    「ところがね、大石さんの銃は、あれはマネスターと云ひましたかね、あのマネスターは立派なんだけどなあ。そのわりにあたらないもんですね」

    「だいぶ、様子が変りましたな」

    その日もやがて夜となって、夏の温泉場も大抵寝鎮まった午後十二時頃になると、隣の座敷で女の軽い咳の声がきこえる。もちろん、気のせいだとは思いながらも、私は起きてのぞきに行った。何事もないのを見さだめて帰って来ると、やがてまたその咳の声がきこえる。どうも気になるので、また行ってみた。三度目には座敷のまん中へ通って、暗い所にしばらく坐っていたが、やはり何事もなかった。

    それは、やつぱり何となく「役所」臭かつた。

    房一は苦笑した。

    「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつうやる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」

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