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    相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。

    が、ふいに一つのことが彼の頭に閃いた。それは盛子の妊娠だつた。それもたつた今さつきはじめて耳にしたことにちがひなかつた。が、この事はすでにずつと前に聞き、彼の心にぐつと深く喰ひこんでいることのやうに、思ひ出すと同時に何か身体中がさつと目覚めて来るやうな厚ぽつたい感覚で蘇つて来た。

    練吉は盃を口にふくみながら答へた。

    「ズブリと相手の眼の中へさしこんでしまつたさうでね。――親方すみません、とあやまつたと云ふんだが、どうもね、――何しろ他の人の見てる前でやるんだから、たまつたもんぢやない」

    「どうも御苦労さま、暑いところを」

    すると、徳次はびつくりしたやうな眼で房一を見やつた。

    「お松ですか?お松は半之丞の子を生んでから、……」

    「どうですか、掛りさうかね」

    「よし。今行く」

    「これから又お出掛けかね」

    「ふむ、さうすると――」

    と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。

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